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執筆者の写真平岡ジョイフルチャペル

7/30 マルコ福音書のイエス (第129回)〜覚醒へと努力する人〜

2023年7月30日 主日礼拝

聖書講話  「マルコ福音書のイエス (第129回)〜覚醒へと努力する人」

聖書箇所   マルコ福音書 13章32〜37節  話者 三上 章



[聖書協会共同訳]

32 その日、その時は、誰も知らない。天使たちもも知らない。父だけがご存じである。」 33「気をつけて、目を覚ましていなさい。その時がいつであるか、あなたがたは知らないからである。34 それはちょうど、家を後に旅に出る人が、僕たちに責任を与えてそれぞれに仕事を託し、門番には目を覚ましているようにと、言いつけるようなものである。35 だから、目を覚ましていなさい。いつ家の主人が帰って来るのか、夕方か、夜中か、鶏の鳴く頃か、明け方か、あなたがたには分からないからである。36 主人が突然帰って来て、あなたがたが眠っているのを見つけるかもしれない。 37 あなたがたに言うことは、すべての人に言うのだ。目を覚ましていなさい。」

 [下線は改善の余地があると私には思われる部分である]


 以下は,ギリシャ語原文の解明に基づく三上の私訳と講解である.


32 Περὶ δὲ τῆς ἡμέρας ἐκείνης ἢ τῆς ὥρας οὐδεὶς οἶδεν, οὐδὲ οἱ ἄγγελοι ἐν οὐρανῷ οὐδὲ ὁ υἱός, εἰ μὴ ὁ πατήρ.

かの日またはその時間については,誰も知っていません.天の使者たちもその息子も(知りません).その父以外は.


32.1 「かの日またはその時間については」

 先行する箇所において,世界の終わりと黙示的メシアの到来の話が語られてきた.これが歴史のイエスによって語られた話であると仮定するなら,イエスは黙示的預言者であったことになる.他方,福音書記者マルコがイエスに付託して語ったと仮定するなら,ここで語られる終末論はマルコ共同体の考えであったことになる.

 初期キリスト教のクリスチャンたちは,新しい世界をもたらすメシアの到来を待望していた.しかし,いくら待望しても,メシアの到来は実現しなかった.そこで未来的終末論に修正を加えた.すなわち,ルカ文書やヨハネ福音書に見られるように,メシアはクリスチャンたちの心の中に,聖霊としてすでに到来しているという現在的終末論への変容である.

 マルコ福音書に戻る.「かの日またはその時間」という文言は,その背景に,それらについて見てきたようなうそをつく偽メシアたちが跋扈していた状況を示唆する.


32.2 「誰も知っていません」

 本物のメシアの到来の日がいつであるか,また何時であるかについては,人間の分際は,誰も知っていないというのが,マルコの見解である.


32.3 「天の使者たちもその息子も(知りません)」

 「天の使者たち」(ホイ・アンゲロイ・エン・ウーラノー).省略すると,「天使」.天の父に仕える天の軍隊.「その息子」(ホ・ヒュイオス)は,天の父の息子.おそらくマルコは,天の父の息子を「人間の息子」と同定した.マルコにとって,「人間の息子」とは来るべきメシアである.「天」(ウーラノス)には,父と息子と使者たちが住んでおり,地上の人間界に関心をもっている,という宗教的世界観をマルコ共同体は共有していた.


32.4 「その父以外は」

 マルコ共同体は,あるいはもしかしたらイエスも,天界の主宰者を「父」と呼び,崇拝していた.彼らにとって,世界の終わりの日と時間を決定するお方は,天の父(ホ・パテール・エン・ウーラノー)だけである.


33 Βλέπετε, ἀγρυπνεῖτε· οὐκ οἴδατε γὰρ πότε ὁ καιρός ἐστιν.

見続けてください.眠らないでいてください.なぜなら,あなたがたは知っていません/その時機(カイロス)がいつであるかを.


33.1 「見続けてください.眠らないでいてください」

 「見続けてください」と訳した「ブレペテ」は,「見る」という意味.その現在時称なので,「見続ける」となる.敵や盗賊の襲撃を見張る.片時も気を緩めない.ひたすら見張り続ける.心の覚醒のことを言っている.メシアの到来に心を集中していてください.メシアの到来が肝心です.他のことどもに心を逸脱してはいけません.なぜそこまで心の覚醒を強調するのだろうか?

33.2 「なぜなら,あなたがたは知っていません/その時期(カイロス)がいつであるかを」

33.2.1 「なぜなら,あなたがたは知っていません」

 もう一度,人間には知ることができないと釘が刺される.

33.2.2 「その時機(カイロス)がいつであるかを」

 「時機」と訳した「カイロス」は,一般的な時間ではなく特定の時間.時期.時季.時機.文脈では,天の父が良しとする時機.それは人間が良しとする時機としばしば異なる.メシア到来の時機を人間は知っていないということは,いつでもどこでも,メシア到来に備えていなければならないということになる.


34 Ὡς ἄνθρωπος ἀπόδημος ἀφεὶς τὴν οἰκίαν αὐτοῦ καὶ δοὺς τοῖς δούλοις αὐτοῦ τὴν ἐξουσίαν ἑκάστῳ τὸ ἔργον αὐτοῦ καὶ τῷ θυρωρῷ ἐνετείλατο ἵνα γρηγορῇ.

(たとえば)本宅を離れる人のようです.(彼は)彼の邸宅を委託しました.そして彼の奴隷たちに要職を与えました/それぞれ(の奴隷)に彼の仕事を(与えました).そして門番に命じました/目を覚ましているように.


34.1 「(たとえば)本宅を離れる人のようです」

 マルコのイエスは,読者・聴衆の理解のために,譬喩を語る.「本宅を離れる人」は,「アントローポス・アポデーモス」.アントローポスは「人間」.「アポデーモス」はそれを修飾する形容詞.「アポ」(〜から離れて)と「デーモス」(本拠地)の合成語.「本宅を離れる」という意味になる.


 ローマ帝国の時代,貴族たちは公職を果たすためローマに住んだが,田舎にある大土地の所有者でもあった.そこではブドウやオリーブなどの果樹や穀物が栽培され,多くの収入源であった.田舎にある邸宅が,彼らにとって本宅であった.これを「ウィーラ」(vīlla)という.彼らはそこでの生活をこよなく愛した.

34.2 「(彼は)彼の邸宅を委託しました」

 ウィーラの生活を楽しんでいた貴族たちは政治家でもあったから,ローマの元老院会期には,長期間にわたウィーラを留守にすることを余儀なくされた.その場合には,信頼できる使用人としての奴隷たちに家の管理を委譲しなければならなかった.


34.3 「そして彼の奴隷たちに要職を与えました/それぞれ(の奴隷)に彼の仕事を(与えました)」

 「要職」と訳した「エクスーシア」の原義は,「権力」「権威」.ここでは仕事を指すが,単なる仕事ではなく重要な仕事.それゆえ「要職」と訳した.「奴隷たちの中からウィーラの管理に適任の者が,主人によって選ばれ,不在中の管理を任された.これを「オイコノモス」という.このオイコノモスの下で,男女の奴隷たちはそれぞれの仕事を割り当てられ,日々の仕事に励んだ.特にブドウ園の管理は重要であった.


34.4 「そしてその門番に命じました/目を覚ましているように」

 泥棒が横行していた時代であるから,門番は見張りの役割を果たした.盗賊団が攻めてきた場合には,男性の奴隷たちは結束して対抗した.マルコ共同体の時点でいえば,偽メシアの闖入を警戒し,覚醒している人.すなわち,各家の教会の男性主人お女性主人ということになろう.門番の役割は重要である.ことさらに目を覚ましていなければならない.

 以上が譬喩.以下は譬喩の適用.


35 γρηγορεῖτε οὖν· οὐκ οἴδατε γὰρ πότε ὁ κύριος τῆς οἰκίας ἔρχεται, ἢ ὀψὲ ἢ μεσονύκτιον ἢ ἀλεκτοροφωνίας ἢ πρωΐ,

ですからあなた方は目を覚ましていてください.なぜならあなた方は知っていません/いつその家の主人が来るかを.夕方か夜中か明け方か早朝かを.


35.1 「ですからあなた方は目を覚ましていてください」

 またもや心の覚醒への勧め.


35.2 「なぜならあなた方は知っていません/いつその家の主人が来るかを」

 また,メシアの到来の時機に関する人間の不知への喚起.これで三度目.「その家の主人」は,メシアを示唆する.


35.3 「夕方か夜中か明け方か早朝かを」

 ローマ式の夜の区分である.まだ睡眠しているとき.「早朝」は「アレクトロポーニア」.鶏の鳴き声.コック クロウ(cock crow). 睡眠をしてはいけないという話ではない.街頭とてない時代,通常,夜中に旅をしない.まさか主人は夜中に来ることはあるまいと高をくくる.その「まさか」が危ない.心の緩みへの警鐘である.ダビデ王は心の緩みのゆえに不倫と間接正犯の犯罪に落ちた.油断してはいけない.北条氏綱の遺言「勝って兜の緒を締めよ」である.


36 μὴ ἐλθὼν ἐξαίφνης εὕρῃ ὑμᾶς καθεύδοντας.

ことのないためです←彼が突然来て,発見する/あなた方が眠っているのを.

 マルコ共同体には弱さがあった.覚醒から逸脱する弱さがあった.しかし,イエスによって信頼され,重要な使命を委託された人たちであることに変わりはなかた.彼らはメシア到来を本気で信じていた.初期キリスト教の他のグループにも,マルコ共同体の信仰を共有するクリスチャンたちがいた.彼らは,主の命令にそむき,眠っている無様な姿を発見されてはならない.


37 ὃ δὲ ὑμῖν λέγω πᾶσιν λέγω, γρηγορεῖτε.

私があなた方に語っていることは,すべての人に語っています.あなた方は目を覚ましていてください.


37.1 「私があなた方に語っていることは,すべての人に語っています」

 「すべての人」とは,マルコ共同体以外にもメシアの到来を信じていたすべてのクリスチャン.初期キリスト教の他のグループにも,マルコ共同体の信仰を共有するクリスチャンたちがいた.彼ら彼女らも目を覚ましていなければならない.


37.2 「あなた方は目を覚ましていてください」

 「グレーゴレイテ」.心の覚醒の保持と継続.いやましに心の覚醒を成長させること.「グレーゴレイテ」の一語に尽きる.


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