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執筆者の写真平岡ジョイフルチャペル

7/21 ある知者の洞察(第35回)〜〈富の追求か清貧か〉を吟味する

更新日:7月22日

2024年7月21日 主日礼拝

聖書講話   「ある知者の洞察(第35回)〜〈富の追求か清貧か〉を吟味する」  

聖書箇所    コヘレトの言葉 5章9〜11節


[聖書協会共同訳]

     [下線は改善の余地があると私には思われる部分]

9 銀を愛する者は銀に満足することがなく/財産を愛する者は利益に満足しない。/これもまた空である。10 富が増せば、それを食らう者たちも多くなる。/持ち主は眺めるほかにどのような得があるのか。11 たらふく食べても、少ししか食べなくても/働く者の眠りは快い。/富める者は食べ飽きていようとも/安らかに眠れない。


 以下は,ヘブライ語とギリシャ語原文の解明に基づく三上の私訳と講解.

ヘブライ語聖書はMTと略す.七十訳ギリシャ語聖書はLXXと略す.


9

אֹהֵ֥ב כֶּ֨סֶף֙ לֹא־יִשְׂבַּ֣ע כֶּ֔סֶף וּמִֽי־אֹהֵ֥ב בֶּהָמֹ֖ון לֹ֣א תְבוּאָ֑ה גַּם־זֶ֖ה הָֽבֶל׃

愛する人は←銀を/飽き足らないであろう←銀に.そしてどの愛する人が(←銀を)←豊かさの中で/(愛さ)ないであろうか?←収穫を.これもまた蒸気.


Ἀγαπῶν ἀργύριον οὐ πλησθήσεται ἀργυρίου·  καὶ τίς ἠγάπησεν ἐν πλήθει αὐτῶν γένημα;  καί γε τοῦτο ματαιότης.

ある愛する人は←銀を/飽き足らないであろう←銀に.そして誰が愛したか?←(それらの or 彼らの)豊かさの中で/収穫を.これもまた空虚


9.1 MTとLXXの比較

 以下においてMTを主体とし,LXXを補助として比較することにする.


9.2 「愛する人は←銀を/飽き足らないであろう←銀に」

9.2.1 「愛する人」

 MTは冠詞がついていない.その意を酌んでLXXも冠詞がついていない.特定の人ではなく,概して「愛する人は」ということ.おそらく大土地所有者,特に労働者を搾取する者たちが念頭にある.

9.2.1 「銀」

 当時の高級通貨.古代地中海世界において硬貨は世界中に流通していた.

9.2.2 「飽き足らないであろう←銀に」

 いわば銀フェチ.フェチはフェティシズム(fetishism)の略語.元来は「呪物崇拝」という意味.呪物が人間に不幸.幸福をもたらすと信じて儀礼の対象とすること.未開宗教によくみられる現象.モノが神さま.文化の水準が低い.


9.2.3 ミダス・タッチ

 「あるところに,ワインの神.ディオニュソスがいた.ディオニュソスと彼に知識を与えていたシレノスがフリギアを旅していたところ,酔ったシレノスが迷子になって,ミダス王が愛したバラの庭で眠ってしまう.

 ミダス王がシレノスを助けて宮殿でもてなしたところ,そのことに感激したディオニュソスはミダス王の願いをなんでも一つ叶えることに.すでに莫大な富を抱えていたミダス王であるが,彼は「王こそが富を独り占めするべきだ」と考えていた.そこでディオニュソスに「触れたものを全て黄金に変え,より裕福になること」を叶えて欲しいと願う.


 願いが叶って触れたもの全てを金に変える力を手に入れたミダス王は喜び,盛大な宴を開きますが,食べ物や飲み物も黄金に変わってしまい,何も食べることができない.また,彼が愛したバラの庭も黄金に変わってしまい,彼はこの力を忌み嫌い,ディオニュソスに「元に戻して欲しい」と懇願した.

 ミダス王を哀れに思ったディオニュソスは,パクトロス川で水浴びをするよう伝える.困難な旅の末,パクトロス川で水浴びしたミダス王は触れたものを黄金に変える力を取り去ることができた.」

 ミダス王のような人を守銭奴と言う.


9.3 「そしてどの愛する人が(←銀を)←豊かさの中で/(愛することをし)ないであろうか?←収穫を」

9.3.1 文法の統合性の欠如

 すぐ前の「愛する人は←銀を/飽き足らないであろう←銀に」と対句をなしていると思われる.しかし,著しく文法の統合性を欠如した文章である.それでも,がんばって解明を試みた.

9.3.2 「そしてどの愛する人が(←銀を)」

 「銀を」は私の補足.

9.3.3 「豊かさの中で」

 有り余る財産をもちながら,なお欲しがる.

9.3.4 「(愛さ)ないであろうか?←収穫を」

 「愛さ」は私の補足.貪欲な大土地所有者は,経営する果樹園や穀物畑からもたらされる収穫を,もっともっと愛欲する.「愛欲」は仏教用語.欲望に執着すること.

9.3.4 LXX

 LXXも非常に困ったと見える.例によって,稚拙な逐語訳に打って出たが,この訳では意味をなさない.


9.4 「これもまた蒸気」

 生成消滅の真理の観点から見ると,財産への執着は「蒸気」(ヘベル)である.


10

בִּרְבוֹת֙ הַטּוֹבָ֔ה רַבּ֖וּ אוֹכְלֶ֑יהָ וּמַה־כִּשְׁרוֹן֙ לִבְעָלֶ֔יהָ כִּ֖י אִם־רְא֥יּת* עֵינָֽיו׃

増すことにおいて←よいものの/増加する←それ(=よいもの)を食べる人たちは.そして何の利益がそれ(=よいもの)の所有者たちにとって(あるのか?)/見ること以外には←彼の目の.


ἐν πλήθει τῆς ἀγαθωσύνης ἐπληθύνθησαν ἔσθοντες αὐτήν· καὶ τί ἀνδρεία τῷ παρʼ αὐτῆς ὅτι ἀλλʼ ἢ τοῦ ὁρᾶν ὀφθαλμοῖς αὐτοῦ;

増加において←よいことの/増加した←それ(=よいこと)を食べた人たちは.そして何の男らしさがそれ(よいこと)の側にいる人にとって(あるのか?)/見ること以外に←彼の目で.


10.1 「増すことにおいて←よいものの/増加する←それ(=よいもの)を食べる人たちは」

10.1.1 「増すことにおいて←よいものの」

 「よいもの」とは,貪欲な富者にとっては高級料理のこと.高級料理によって代表される,贅沢な暮らしの増加.拡大こそが,その人の最大関心事.

10.1.2 「増加する←それ(=よいもの)を食べる人たちは」

 贅沢な暮らし向きは何をもたらすであろうか?それにありつこうとする人たちの増加である.三通りの解釈が可能である.

 1)食客,腰ぎんちゃく,おべっか使いら下劣な人々が群がってくる.

 2)税金や出費が嵩む.

 3)富をあくせくと稼ぐ人たちの中で,貪欲がいやましに肥大していく.

10.2 「何の利益がそれ(=よいもの)の所有者たちにとって(あるのか?)」

10.2.1 「何の利益が...(あるのか?)」

 「何の利益が」が主語の疑問文.動詞がないので,「ある」を補足してみた.「利益」(キシュローン)は,コヘレトから見た利益.富への執着と過剰な蓄積に対する批判が,読み取れる.LXXでは「男らしさ」(アンドレイア)だが,文脈に合致しない.

10.2.2 「それ(=よいもの)の所有者たちにとって」

 よいものの所有者は,死んだ後,それをどこでどのように所有するのであろうか?2024年世界富豪番付によると,一位のフランスの某さんが所有する資産は34兆円とのことである.一万円の重さに換算すると,3,400トン.飛行機のボーイング777の約28機分の重量に相当する.


 死者の世界に移住するには,そんなにお金はいらない.古代ギリシアでは,ステュクス川の渡り賃1オボロスで足りる.ドラクメ銀貨の1/6の銀の分有量.現代の25ドルくらいという説がある.三途の川の渡り賃は,六文銭.


10.3 「見ること以外には←彼の目の」

 LXXは「見ること以外に←彼の目で」.意味に違いはない.見て楽しむということか.それ以外に,たとえば飛行機のボーイング777の約28機分に相当する1万円札の山を,どのようにして楽しむことができるだろうか?


11

מְתוּקָה֙ שְׁנַ֣ת הָעֹבֵ֔ד אִם־מְעַ֥ט וְאִם־הַרְבֵּ֖ה יֹאכֵ֑ל וְהַשָּׂבָע֙ לֶֽעָשִׁ֔יר

אֵינֶ֛נּוּ מַנִּ֥יחַֽ לֹ֖ו לִישֹֽׁון׃

甘美(である)/睡眠は←労働している人の,たとえ少しであれ/たとえ多くであれ,彼が食べるならば.そして満腹は富者に安らぎを与えない/彼には眠ることは(ない).


γλυκὺς ὕπνος τοῦ δούλου, εἰ ὀλίγον καὶ εἰ πολὺ φάγεται· καὶ τῷ ἐμπλησθέντι τοῦ πλουτῆσαι οὐκ ἔστιν ἀφίων αὐτὸν τοῦ ὑπνῶσαι.

甘美(である)/睡眠は←その奴隷の,たとえ少しであれ/たとえ多くであれ,彼が食べるならば.その満たされる人にとって←富者であることに/許す人はいない←彼が眠ることを.


11.1 「甘美(である)/睡眠は←労働している人の」

11.1.1 「甘美(である)」

 「である」は私の補足.甘美なるものはいろいろある.はちみつ,メロン,スイカ.11.1.2 「睡眠」

 そして睡眠.夢一つ見ない熟睡は,まさに甘美である.


11.1.3 「労働している人」

 甘美で快適な睡眠は誰にでも与えられるものではない.肉体で,あるいは精神で,汗水流して労働している人にのみ与えられる.学生時代に水道管の穴掘りのアルバイトをした.炎天下の重労働であった.夜は熟睡した.ただし夢は見た.私はつるはしを振るい続けていた私の夢.


11.2 「たとえ少しであれ/たとえ多くであれ,彼が食べるならば」

 お腹が空いていたので質素な食事であったが,おいしくいただいた.ちなみに,アルバイト代で私が買ったものは,食料ではなく外国語の辞書であったと記憶している.


11.3 LXX「奴隷」

 「奴隷」(ドゥーロス)とは限らない.自由民も含まれる.自分から進んで労働するところに,達成感と喜びと健康がある.


11.4 「その満たされる人にとって←富者であることに/許す人はいない←彼が眠ることを」

11.4.1 「その満たされる人にとって←富者であることに」

 過剰に富者である人のこと.その人は多忙である.議会出席,パトロン(庇護者)としてクリエンテース(被庇護者)の面倒を見ること,果樹園や農地の管理など.頻繁な宴会出席.読書をする暇はない.妻とゆっくり話す暇もない.子どもと遊ぶ暇もない.

11.4.2 「許す人はいない←彼が眠ることを」

 過度の食事と過度の富,そしてそれらがもたらす多忙は,睡眠時間を削る.往々にして睡眠障害をもたらす.お金で快眠を買うことはできない.



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