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執筆者の写真平岡ジョイフルチャペル

11/10 マタイ福音書のイエス (第18回) ~喧騒な場所での修行(2)奇跡~

2024年11月10日 主日礼拝

聖書講話     「マタイ福音書のイエス (第18回)

                   ~喧騒な場所での修行(2)奇跡~」 

聖書箇所    マタイ福音書 4章5~7節   話者 三上  章


[聖書協会共同訳]  

      ※下線は修正の余地があると思われる部分

5 次に悪魔はイエスを聖なる都に連れて行き、神殿のに立たせて、6 言った。「神の子なら、飛び降りたらどうだ。/『神があなたのために天使たちに命じると/彼らはあなたを両手で支え/あなたの足が石に打ち当たらないようにする』と書いてある。」 7 イエスは言われた。「『あなたの神である主を試してはならない』とも書いてある。」


 以下は,ギリシャ語原文の解明に基づく三上の私訳と講解です.


5 Τότε παραλαμβάνει αὐτὸν ὁ διάβολος εἰς τὴν ἁγίαν πόλιν, καὶ ἔστησεν αὐτὸν ἐπὶ τὸ πτερύγιον τοῦ ἱεροῦ,

その時,伴う←彼(イエス)を←その中傷者は→その聖なるポリスの中へ.そして立たせた←彼を/その小塔の上に←その神殿の.


5.1 「その時,伴う←彼(イエス)を←その中傷者は→その聖なるポリスの中へ」

5.1.1 「その時」

 イエスが静寂な場所で飢えていた時,中傷者は「神の息子であるのだから,石をパンに変えてみよ」と試験した.イエスはこの試験に合格した.しかし,その試験者は引き下がらなかった.「その時」,イエスに新たな試験を突きつけようと目論んだ.

5.1.2 「その聖なるポリスの中へ」

 場面は,無人の静寂から都会の喧騒に移行する.ポリスは概して大きな町.「聖なる」という形容詞は,エルサレムを示唆する.なかんずくエルサレムのヘロデ神殿.そこを拠点として,サドカイ党の宗教貴族たちは,納入される多額の神殿税をほしいままに濫用していた.この外面的な宗教支配体制に対して,内面的な宗教体験の立場から異を唱えたのがイエスであり,彼の短いが内容の濃厚な生涯であった.


5.2 「そして立たせた←彼を←その神殿の小塔の上に」

5.2.1 「立たせた←彼を」

 その聖なるポリス,すなわち宗教都市のなかで,試験者はイエスを目立つ存在に仕立て上げようと企てた.宗教貴族に,というよりは宗教貴族に君臨する大宗教貴族に祭り上げようとした.そういう人物は,巷では大祭司と呼ばれたりする.当時の宗教意識の強烈な社会において,大祭司は偉大な存在,聖なる存在,平民の近寄ることのできない存在,しかし人々の前に立ち,目立つのが大好きな存在であった.

5.2.2 「その小塔の上に←その神殿の」

 試験者がイエスを立たせた場所.大衆の誰もが見ることができる目立つ場所である.単に「神殿」であるだけではなく,その「プテリュギオン」の上である.「プテリュギオン」は,「翼のようなもの」「(ふくろう)の角」が原義.転じて「小塔」.ここでは神殿の小塔の上と解釈する.とにかく神話の話なので,歴史的に場所を同定しようとする議論は,無駄な骨折りかもしれない.

 さて試験者は何のために,どういう目的で,イエスをプテリュギオンの上に立たせたのだろうか?


6 καὶ λέγει αὐτῷ · Εἰ υἱὸς εἶ τοῦ θεοῦ, βάλε σεαυτὸν κάτω · γέγραπται γὰρ ὅτι Τοῖς ἀγγέλοις αὐτοῦ ἐντελεῖται περὶ σοῦ καὶ ἐπὶ χειρῶν ἀροῦσίν σε, μήποτε προσκόψῃς πρὸς λίθον τὸν πόδα σου.

そして言う→彼(イエス)に.「あなたは神の息子であるのだから,投げてください←自分を→下に.なぜなら,書いてあります.〈使者たちに←(神)彼の←彼(神)は命じるでしょう←あなたのために.そして両手の上に←彼らは持ち上げるでしょう←あなたを.あなたが打ちつけないように←一枚の石の上に←あなたの片足を〉


6.1 「あなたは神の息子であるのだから,投げてください←自分を→下に」

6.1.1 「であるのだから」

 「であるのだから」と訳した「エイ」は「〜ならば」を意味することもできるが,ここでは「である」は現在時制直説法なので,論理的原因・理由を示す.仮定の意味合いはない.「である以上は」という断定的な言い方である.

6.1.2 「神の息子」

 ギリシア・ローマ神話では,男神と女神から生まれた男子の神.たとえば,ゼウスとマイアから生まれた.ヘルメス.空を飛び,ゼウスの伝令を務める.


 あるいは,神と人間から生まれた半神半人の男児.たとえば,ヘラクレス.ゼウスと人間の女性アルクメネの間に生まれた.並の人間には為しあたわぬ12の試練に打ち勝った.神の息子たるものは,奇跡によって自分を証明しなければならない.


6.1.3 「投げてください←自分を→下に」

 あなたがいとも高い天から下った神の息子である以上,この遙かに低い小塔から飛び降りるくらいは,わけのないことでしょう,という試験である.

6.2 「なぜなら,書いてあります」

 聖なる書,すなわちユダヤ教聖典に書いてありますという意味.七十人訳ギリシア語聖書(LXX)の『詩編』90篇11-12節からの引用.語順までぴったり一致している.マタイは聖書を上段に振りかざすのが好きである.試験者は,聖書を逆手にとっている.


6.3 「使者たちに←(神)彼の←彼(神)は命じるでしょう←あなたのために」

6.3.1 こういう手法を字義拘泥主義という.直解主義ともいう.たとえば,アメリカの福音派と日本におけるその亜流に見られる特徴である.

6.3.2 「使者たち」

 「アンゲロス」の複数形.「使者」が原義.神の使者である.「天使」の「天」は余計である.


6.4 「両手の上に←彼らは持ち上げるでしょう」

 「彼ら」は「使者たち」を指す.信仰くさい文言であるが,反則的論法にすぎない.


6.5 「あなたが打ちつけないように←一つの石の上に←あなたの片足を」

 これが逐語訳.


6.5.1 「あなたが打ちつけないように」

 重力の法則に逆らう発言である.

6.5.2 「一つの石の上に」

 この「石」(リトス)は,石ころではなく,石畳の一枚であろう.場所は神殿であるから,大理石か.


7 ἔφη αὐτῷ ὁ Ἰησοῦς · Πάλιν γέγραπται · Οὐκ ἐκπειράσεις κύριον τὸν θεόν σου.

言った→彼(試験者)に←イエスは.「また,書かれています.〈あなたは試験してはなりません→主・あなたの神を〉」


7.1 「また,書かれています」

 中傷者が突きつけた聖書の文言に対して,マタイのイエスは聖書の文言で応戦する.低い水準の問答,泥試合である.歴史のイエスに似つかわしくない.イエスは,自分の考えを,自分の責任において,自分の言葉として表明した.


7.2 「あなたは試験してはなりません→主・あなたの神を」

 伝承もしくは福音書記者マタイの考えを代弁している.マタイは自分のちっぽけな考えをすぐれて知者なるイエスに付託して語っている.もちろん,人間は神を試験する立場にはない.死すべき人間が不死の神を試験するなどということは,不遜きわまりない.

 しかし,神を標榜する人を試験することは,許されるし,むしろ積極的に行われなければならない.神を標榜する人とは,神について偉そうなことを語る人.自称預言者.自称説教者.自称宣教師.自称神学者など宗教を食いぶちとする人たちである.

 彼らは神について真理を語っているのだろうか?神を知っているのだろうか?神の真理を自ら体験しているのだろうか?彼らの話に中味があるのだろうか?学問的裏付けがあるのだろうか?神を標榜する人は試験されなければならない.むしろ,その人は自分自身をたえず試験し,吟味し続けなければならない.隗より始めよ,である.


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